「アブダビ」

 アブダビは知名度ではドバイに劣るがアラブ首長国連邦(UAE)の盟主であり、その原油の埋蔵量は膨大である。ホルムズ海峡近くの半島部に位置する。2007年、株価下落が止まらずに経営危機さえ囁かれていたシティ・グループへ大型出資して救済、脚光を浴びた。最近は観光にも力を入れていて、ルーブル美術館の別館を昨年オープンさせている。

 

 同国の海外不動産投資を語ることは、かつては簡単だった。世界最大規模の政府系ファンドだった「アブダビ投資庁」の話をすれば、(他にも若干あったが)それでほぼ済んでいたのだ。ところがマレーシアでナジブ政権時代に起きた政府系ファンドの巨額の資金消失事件にアブダビ政府の高官がかかわり、財政に一千億円規模の穴を空けてしまった。この問題の処理の過程で海外投資に関する組織も整理再編された。

 

 この「整理再編」が実に分かりにくかった。新たに組織がいくつか設立され、しかしそれぞれの役割の説明はあまりにもあいまいで、当方の関心事であるアブダビ投資庁時代に購入された不動産がどこの組織へ行って、今後の海外不動産投資はどこの組織が担当するのか、一向に判然としなかったのだ。

 

 折からの原油価格の下落もありアブダビは元気をなくし、欧米のメディアが持っていた「世界市場でのプレイヤーとしてのアブダビ」への関心も薄れた。その中で伝えられるわずかな情報を精査したわけだが、新しい体制の在り方がどうにもよく分からない。

 私はこれは「お家騒動」のようなもので、王族(首長族)や有力者等の間で行われたメンツなり利権の調整、資産の再分配だったのではないかと想像している。あたっているかどうかは分からないが。

 

 さて長期の低迷状態にあった原油価格も、かなり回復してきた。

 従前、アブダビも含めて各国の政府系ファンドが海外で投資する場合、英米のファンドに出資する形が多かった。現在、公的ファンドの間で民間のファンドに対する運用委託を見直す動きが広まっている。外部のファンドに隠れ自らの姿を直接は現さない事が多かったアブダビだが、今後は「整理再編された組織」のいずれかの名前である日また突然、世界市場を揺るがすかもしれない。その市場が「不動産市場」である可能性は十分にあるのである。

 

                       ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2018年8月20日号掲載