地方の一航空会社から巨大コングロマリットになった中国のHNA(海航集団)の共同会長、王健氏が、フランスで事故死しました。プロバンスの教会で転落防止用に設けられていた壁の上に立ち、自分の写真を撮ってもらおうとしたところバランスを崩して10-15m転落、内臓破裂で死亡したものです。一緒に出張していた人や周辺にいた人たちの証言から判断し、この事件は単なる不注意であり陰謀、謀殺、自殺等の可能性は全くないようです。
HNAは3年間で総額400億$(4.4兆円)、123件の海外ディールを実施、借入金は940億$(10.4兆円)に膨らみ、中国の当局はこれを金融システム上のリスクとして、同社ほか3社に保有資産の売却を強いました。HNAの最近の大口の資産売却を見てみましょう。
まずヒルトン株ですが、HNAは2016年に同社株を65億$(7215億円)で購入していましたが、この4月にすべての処分のめどがつき利益額は60億$(6660億円)前後と確定しました。この間に株価が急騰、このような大変な利益額になったわけです。
次に香港の旧啓徳空港跡地開発ですが、HNAは2016年末以降4区画買っていて、先日そのうちの3区画、合計224億HK$(3180億円)の売却を完了しました。粗利益は概ね3億$(333億円)で、上乗せできた利益額は購入額に対して12-15%です。
ニューヨークの旗艦ビル、245パークアベニューの買い手の最有力候補はオフィス・リートのSLグリーンとされ、交渉中の価格は22.1億$(2450億円)であるとまで報じられているのですが、まだ最終合意には達していないようです。
他にも数多くあるディールの陣頭指揮を取っていたのが、今回、亡くなった王健氏です。上に挙げたのはみな、黒字売却ですが、これは「黒字で売れるものから売った」と理解すべきでしょう。売ると赤字となる物件は、塩漬けにする可能性があります。
HNAは当局から、不動産ビジネス等からは完全撤退し、祖業である航空業、旅行業へシフトするようにと命じられているのですが、変な話も聞こえてきます。
6月に中国の飛行機製造会社にジェット機300機を発注したのですが、これはいわば実質的な「政府保証付き」でしょうから良しとしましょう。
しかしフランス人は良しとしません。エアバスはHNAから受注した6機のA330sについて代金支払いに不安があるとして、機体の引き渡しを控えています。実際、3月には中国でHNAの燃料代や空港使用料の未払いが問題化しました。祖業回帰も前途多難のようです。
(ドル=111円 HK$=14.2円 7月25日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY-news Vol.39 8月 2018年 掲載