「ブラックストーン」

 ブラックストーンは日本の大型の不動産取引を行った経験がある。約1万戸の賃貸マンションポートフォリオを2014年に2000億円で取得、二年後に2600億円で売却したことがあるのだ。同社はいつ本格的な形で再度、日本に登場しても不思議ではない。

 

 今の時点でブラックストーンを語る際には、「ジョン・グレイ氏」の名前は外せない。

同社の経営は企業買収と不動産買収の二本立てだが、元々は企業買収が中心だった。グレイ氏が不動産部門のヘッドに着任したのは2005年で、その後猛烈な売買と利益配当を行いながら、不動産運用額は今は彼の着任当時の24倍である1200億ドル(13兆円)に膨張した。グレイ氏はこの実績が高く評価され、先日ブラックストーンの社長へ昇進した。

 

 今でも語り草となっているグレイ氏の活躍例を二つあげてみよう。

 一つはホテルのヒルトンだ。2007年10月に260億ドル(2.9兆円)で買収すると同時に非上場化した。大胆なリストラとメリハリの効いた追加投資をした後に徐々に株式を売却、この春にそれがほぼ完了して11年間に及んだ投資の損益が確定した。

リーマンショック後の減損や自社株買い等があって利益額の計算は面倒だが、同社は投資額のほぼ3倍を手にしたとされる。これはファンドによる1本のディールの利益の巨額さとしては圧倒的な史上最高額だ。

 

 ヒルトンの買収と同じ2007年の2月に行われたオフィスビル・リートの買収額は390億ドル(4.3兆円)で、これは史上最大のM&Aだった。さらに驚くことにはグレイ氏は取得した物件の半分以上をディールから数週間以内に売り切ってしまった。まさに電光石火だ。

 

 ブラックストーンの最近の超大型案件で有名なものにはトムソン・ロイターがある。買収額は200億$(2.2兆円)だ。但しこれは企業買収案件であり、不動産買収案件ではない。

 

 ブラックストーンの業態は「プライベート・エクィティ」と呼ばれ、「大手四社」とされるが、その中で同社は図抜けた存在である。ふり返ると、2007年の新規上場が境目だった。この時、ブラックストーンは上場で40億$、上場前に中国投資公司(中国の政府系ファンド)から30億$、合計約70億$(7800億円)の自己資金を手にした。

 他3社の上場は僅かに遅れ、この間にサブプライム・ショックがあり金融株が大幅下落、資金調達額は一桁少なくなってしまい、これがきっかけで挽回不能な差がついたのだった。

 

                ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

週刊住宅 2018年7月30日号掲載