以前から世界の大都市の住宅価格の間には連動して動いているような傾向が無きにしもあらずでしたが、ここにきてそのような「シンクロ」の度合いが顕著になっているという指摘があります。もしそうなら、東京の住宅価格の先行きはニューヨークなりロンドンなりをウォッチしていた方が良いということになります。
期間を2008年以降の10年間で、ニューヨークについて見てみましょう。アメリカの住宅価格がピークだったのはこの直前の2006年で、2008年という年はサブプライムショックに続いたリーマンショックにより住宅価格は激しく下落していました。連邦準備制度理事会(アメリカの中央銀行に相当)が量的緩和に踏み切ったのがこの年の暮れです。
住宅価格は2009~2012年年初の間、底這い状態に陥った後に上昇局面に入ります。その頃からニューヨークでは世界各地の投資家による「外国人買い」が目につくようになりました。これに伴い住宅価格はさらに上昇を続けます。
すると特にハイエンドな物件の新規供給が大幅に増えました。明らかな供給過多から2015年頃から超価格帯物件の売れ行き悪化・値崩れが始まり、それが順繰りに下の価格帯の市場に波及していきます。現状、大衆向け価格帯物件にもその影響が若干出ています。
この様な「量的緩和」→「外国人買い」→「価格上昇」→「(ハイエンドな物件の)供給過多」→「(ハイエンドな物件から始まる)値崩れ」という流れが共通する世界の大都市が多いのです。
例えばトロント、バンクーバー、シドニー、ロンドンがこれにぴたりと一致します。
東京とニューヨークを比較すると、アメリカの住宅価格がピークだった2006年頃というのは日本で「不動産ミニバブル(概ね2007年頃)」と言われていた時期とほぼ一致します。日銀の初の量的緩和は2001年なので参考になりませんが、その後の「外国人買い(日本では中国勢のみだった)」以降の流れは概ねこれに沿っています。ただ東京の場合は変化が微温的で価格の上下が他の都市ほどは激しくなく、また現在の状態は「値崩れ」というより「販売にかかる時間の長期化」というレベルかと思われます。
このようなシンクロ現象を引き起こした最大の要因を一つあげろと言われれば、各国中央銀行が採用した長期にわたる強力な量的緩和と言ってよいでしょう。
もちろん、全ての都市がシンクロしている訳ではありません。パリの動きは全く異なりますし、香港ではまだ天井知らずの上昇が続いています。シンガポールは4年に及ぶ下落局面を昨年後半にやっと脱したところです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清