M&Aでは買収の申し入れを受けた側が取る態度が・・

 M&Aでは買収の申し入れを受けた側が取る態度が3種類ある。「受諾」と「拒絶」、もう一つはそのどちらとも公には態度を明らかにしない対応で「アンソリシティッド(unsolicited)」と呼ばれる。まったく相手にできないという意思表明の事もあるが、水面下で条件交渉をしている(例:買収価格の引き上げ)場合も多い。

 米SCリート第2位のGGP(旧称:ジェネラル・グロウス・プロパティーズ)はブルックフィールドからの買収オファーに対してアンソリシティッドだったが、ほんのわずかな価格引き上げでディール合意となった。今後、世界最大規模のリートが誕生する事になるはずだ。今回の買収合意はGGPが保有するモールの時価評価額を全部足した額よりも21.9%も低い額だった。モールの時価は覚悟している価格よりもさらに低いのかも知れないという点で、他のモール会社は衝撃を受けている。

 イギリスでは複雑な事態が起きた。SC会社インツに対してハマーソンが買収をオファーしたがアンソリシティッドな状態となっていて、そこへフランスのクレピエールがハマーソンに対して買収をオファー、これもまたアンソリシティッドな状態となっている。ハマーソンは自分は買収をしかけながら、自分にも買収が仕掛けられているわけだ。

 

 盛大に海外M&Aをし過ぎて当局から資産売却を強いられている会社の一つ、HNAが保有するヒルトン本体の売却をする見込みだ。ヒルトンから派生した2つの会社についてはもう売却を終えている。今回の売却では最大65億$(6960億円)程度を手にする。

 ヒルトンは2007年にブラックストーンによる260億$(2.78兆円)という超巨額のLBOで非上場化され、再上場したのは2013年、HNAがブラックストーンからヒルトン株・25%(26%)を取得したのは2016年だ。

 ちなみにプライベート・エクィティ・ファンド最大手であるブラックストーンにとって、今までにもっとも儲かった投資はこのヒルトン株であり、これを担当したはずなのが以前紹介したジョン・グレイ氏(48才)だ。彼はブラックストーンの次期CEOとなる。

 

 安邦保険は2月から政府管理に置かれたが、中国保険保証基金から608億元(1.04兆円)の資本注入を受けた。同基金は「預金保険機構」の保険業界版だ。同社は保険商品販売を再開したが、同社には政府がバックについていると受け止められ、売れ行きは順調だ。集めた資金の使途は、たぶん昔に販売した保険商品の償還費用であろう。

 

 サム・ゼル氏が久々に登場した。「墓場のダンサー」として知られていた往年の不動産王だ。行き詰ったオフィスビルを買い集めて組成したリート、「エクィティ・オフィス・プロパティーズ」を、2007年初頭にブラックストーンへ390億$(4.17兆円)へ売却した人物だ。

 今回はゴールドマン・サックスと組んでアルゼンチンの不動産に3億$(321億円)を投資するというのだが、真剣勝負の投資とは思えない。

 

 ブレグジットについて、イギリスのビジネス界では楽観的に構えるところが増えている。金融業の雇用流出が思われていたほどは大きくない(=借り床の縮小は軽微)との思惑からシティの家賃はむしろ上昇している。ロンドン中心部では新規貸付けの20%がコワーキング会社向けなのだが、ブレグジットの影響を見極めるまではオフィスの柔軟な借り方が可能なコワーキングで凌ごうという借り主企業の思惑もある。

 

 WeWorkに対してケチばかり付けていたフィナンシャル・タイムズだが、一転して非常に好意的な記事を載せた。WeWorkはテナントの成長段階に応じて柔軟な面積の床を提供するとし、既存のビル賃貸慣行は必要な床面積よりも広めに貸す傾向があり、これにより家賃、内装費、仲介業者手数料等の全てにわたって無駄が発生しているとしている。

 

グローバル不動産経済研究会:レジメ (2018.4.13)

 

                  (ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清)