中国の不動産大手が、買い漁ってきた海外資産の売却を強いられる

 今回の話はまさに現在進行形の話です。

 世界で続々とトロフィー不動産が売られています。「トロフィー不動産」とは価格にして数百億円以上の大型の物件の事で、オフィスビルかホテルが主です。

 「売り」に回っているのは中国のHNA(海航集団)、大連万達で、先日、政府管理とされた安邦保険も今後、保有物件多数の「売り」に回る事はほぼ間違いありません。ほんの一年前までは盛大に買収を「する側」だったこれらの会社は、強いられる形ですでにニューヨーク、シドニー、ゴールドコースト(オーストラリア)、ロンドンの物件を売りました。

 彼らの運命の暗転がはっきりしたのは昨年6月です。中国の金融当局が銀行に対して彼らへの融資に注意するよう、警告した(英語では「システミックリスク」という言葉が使われていた)のです。次いで8月、中国政府は海外投資を「奨励分野」「制限分野」「禁止分野」の三つに分類するとし、不動産・ホテル・映画館等は「制限分野」に入れられてしまいました。

 中国政府がHNA、大連万達、安邦保険等の海外買収を快く思っていなかった事は、かなり前から分かっていました。海外買収に必要なドル(=外貨)の取得を為替当局が認めなかったり、一部の会社の経営者が別の当局により拘束される事態が起きたりしていたからです。

 中国でSCを大規模に展開している大連万達の不動産子会社の香港での新規上場とその上場廃止も、当局をかなり怒らせたケースと思われます。同社の上場は201412月、上場廃止方針の発表はその僅か1年半後の20165月で、これは外貨準備高の急減が止まらずに中国政府がいらついていた時期でもあります。344HK$4680億円)というTOBの額もさる事ながら、多額におよんだ「上場時に得た外貨」と「上場廃止のために払う外貨」の差にも不快感を募らせたでしょう。その分、中国の富が意味なく国外へ流出したのです。

 大連万達の王健林CEOは不動産王として3兆円を越す資産を持ち、一時は中国で一番の富豪でした。今は資産をどんどん売却、なりふり構わずに生き残りを図っています。

 さて中国はこの問題に対してなぜかくも神経質になっているのでしょうか。それは冒頭にあげた、「システミックリスク」に対する危惧からでしょう。「システミックリスク」とは一つの銀行等の破綻が他の多数の銀行等の破綻に連鎖し、金融システム全体が機能不全になる危険性(リスク)の事を言います。中国の金融についてはそのような懸念を持たなくてはいけない脆弱性があると当局も認識していることが、はっきりしました。   

ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

HK$=13.6円 201836日近辺のレート)

三井不動産リアルティ㈱発行

 

REALTY-news Vol.34  3月 2018年 掲載