表参道の商業ビル5本をノルウェーが東急不動産と組んで購入しましたが、この「ノルウェー」について解説いたします。
買った主体は「ノルウェーのSWF」と呼ばれる事が多いノルウェーの政府系ファンドです。
同ファンドは2016年時点で既にニューヨーク、パリ、ロンドン、ベルリン他で不動産投資済みでした。東京とシンガポールでは2015年頃から物件と投資の際のパートナーを探し始めていてそれが今回のディールとなった訳ですが、ディール発表の際に「今後の投資案件については東急不動産以外の会社と組む可能性もある」と明言しています。
さてこの「ノルウェーのSWF」のファンド規模ですが、昨年9月に1兆ドル(108兆円)の大台に乗りました。日本のGPIFの運用資産は162.7兆円ですが人口一人当たりでは128万円です。ノルウェーの人口は約523万人なので、一人当たりでは2070万円にもなります。
このような超巨額の「貯金」が出来た理由は、一にも二も「北海油田」です。1960年代に発見されたこの油田の権益の大部分はイギリスとノルウェーが取得しましたが、油田としての規模はさほど大きくなく、当初から早晩、掘り尽くすであろう事が分かっていました。
イギリスは原油の売却収入を疲弊した経済の立て直しや老朽化したインフラの更新等に使い果たしました。一方、ノルウェーはこれを「別段預金」で貯蓄して将来の為に残すとしたのです。その別段預金が今の「ノルウェーのSWF」となっています。
毎年の原油収入の繰り入れと、ファンドの順調な運用成績の結果、「1兆ドルファンド」となった訳ですが、問題も出てきました。規模が大きくなりすぎて、なんと「世界の全上場株の1.5%相当も所有する」状態になってしまったのです。これでは「池の中のクジラ」になりかねません。
そして着目したのが不動産です。同SWFは昨年暮れの投資の際に、ポートフォリオにおける不動産比率を現在の2.5%から2019年までに4%に引き上げたいとしています。これは「1兆ドル×1.5%」の150億ドル(1.62兆円)分の新規購入だけでは済みません。1兆ドルが10%で回っているとしてその4%分の2年分である80億ドル(8600億円)、合計230億ドル(2.48兆円)もの不動産を2年間の間に買わないとこの目標は達成できないのです。
なお原油価格の長期低迷で2015年から同SWFは「引き出し」に陥っています。しかしファンドの運用利回りによりこの「引き出し」を賄えているので、この点の問題はありません。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
(ドル=108円 2018年2月21日近辺のレート)
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.33 2月号 2018年 掲載