2015年にパリ郊外のベルサイユの近くで、2.75億ユーロ(371億円)で超豪華な一戸建ての住宅が売買されました。買主は当時も今も「中東の富豪」とされ、名前は明かされていません。 しかしニューヨークタイムズは2017年12月、この物件の真の買主はサウジアラビアのムハンメド皇太子だったとしています。同皇太子は11月に同国の王子やセレブ・百数十名を「汚職容疑」で一斉検挙し、リヤドのリッツ・カールトンに閉じ込めた事でも有名です。
同皇太子は5億ドル(565億円)の豪華ヨットも買っていたようですし、先だって4.5億ドル(509億円)で落札されたレオナルド・ダ・ビンチの絵についても真の購入者のようです。
皇太子は、投資は自身の投資会社、エイト・インベストメントで行っているのですが、フランス、ルクセンブルク、バミューダ、マン島、ケイマンほかに設立したいくつものペーパー会社を重ねて覆い隠しています。
これらの多くはいわゆるタックス・ヘブン(租税回避地・税金パラダイス)です。いろいろな企業がこぞってペーパー会社を設立してきたために、弁護士、会計士、金融会社等が組んだ「ペーパー会社設立・運営」のインフラが出来上がっています。ここで会社を設立する目的には脱税・節税や、名前が知られないようにする(匿名性)事も多いわけですが、海外子会社を設立する費用や手続きが安くて簡単なのでここに作っただけという例も多くあります。
一昨年のパナマ文書に続き昨年はパラダイス・ペーパーによって顧客の極秘情報が漏れ出、タックス・ヘブンを通じた取引の一部が明るみになりました。今回のサウジの皇太子の取引もこの流れの中で判明したものです。
さて問題のベルサイユの超豪邸ですが物件の名前は「シャトー・ルイ14世」、フォーチュン誌は「一戸の住宅としては史上最高額の住宅取引」としています。外観は17世紀の城そのものなのですが、実はこれがなんと「超々豪華版の新築建売住宅(建売シャトー)」なのです。豪華噴水や彫像、さらに鯉が泳ぐ堀の底はガラスになっていて地下室から上を見上げられます。ワインセラー、映画室、現代的な音響・照明システムだけでなく、フレスコ画を施した大広間の天井等々、実際に見ればこれを単なる『悪趣味だ』とは言えないとフランス人を唸らせました。
長引く原油価格の低迷で、サウジは財政赤字や外貨準備の減少に苦しんでいます。サルマン現国王の散財はよく知られていますが、ムハンメド皇太子のこれらの散財をサウジの国民はどう思うのでしょうか。同皇太子は「社会改革」を目指すと自認しているのです。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
(ユーロ=135円 ドル=113円 2018年1月9日近辺のレート)
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.32 1月号 2018年 掲載