香港のビジネスの中心地、セントラルにある73階建てのビル、「ザ・センター」の75%分が402億HK$(5869億円)という超高値で売買されました。このビルは香港では5番目に背が高いビルです。香港の不動産市場では現在、巨額取引が相次いでいます。行き過ぎた高値を警戒する声はあるのですが、実際にはそのような声を押しつぶすかのように中国から大量のマネーが流入、価格は一段と高くなっています。
過去に世界で起きた「単体のビル取引」の売買額ランキングを見てみましょう。フィナンシャルタイムズによれば、昨年あった上海のセンチュリー・リンクがトップで、売買額は29.5億$(3363億円)です。第2位はニューヨークのGMビルの28.0億$(3192億円)で、これは2008年の取引です。同じ2008年にはスペインの大手銀行、サンタンデル関連のビルもほぼ同額($建て)で売買されています。今回の取引は額が格段に大きいことが分かります。
「ザ・センター」の売主はアジアの大富豪、李嘉誠(リ・カーシン)率いるCKアセットで、同社の前身は有名な「長江実業」という会社です。李嘉誠は傘下のグループ企業を再編、不動産部門をいったん「CKプロパティ」とした後に、現在の「CKアセット(長江アセット)」と名を変えました。すなわち今回の売主は昔の「長江実業」と考えても良いでしょう。
買主は「CHMTピースフル」というペーパー会社で、タックスヘブンである英領バージン諸島に登記されています。「CHMT」はC(中国)、H(香港)、M(マカオ)、T(台湾)とも読めます。確定的な事はまだ言えないのですが、このペーパー会社を率いているのは「中国国儲能源化工業団」という資源・エネルギー会社のようです。同社の幾層かに重なった出資構造を辿っていくと、中国共産党の一部局に行きつきます。 中国には国有企業がいくつもありますが、このように共産党により所有されている会社というのは珍しいそうです。
従って今回の話は「中国共産党が香港で世界一高い値段でビルを買った」事になりますが、これは「資本主義」に染まった西側諸国の論理で説明するとそうなるわけで、中国ではこのような論理は意味を持たないことが多々あります。先日、HNA(海航集団)という超巨大複合企業について株主の整理があったのですが、それは唖然とするような説明でした。
さらに中国政府は今年の8月に、海外不動産投資は「制限する」と規制を明文化したばかりです。2014年後半から2016年末にかけて起きた外貨準備の急減に対する警戒がその主たる理由です。そのような中で中国共産党傘下の会社が政府が敷いたばかりの規制を真っ向から破る形で大型ビルを買ったわけで、この面からも注目される取引です。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
($=114円 HK$=14.6円 2017年11月8日近辺のレート)
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.30 11月号 2017年 掲載