GLPはシンガポール上場の物流リート大手で、系列のリートは日本でも上場しています。同社は今年1月に「身売り」の方針を発表しました。
企業が自分自身を「身売り」するというのは次のような手続きを言います。企業が売却される時は第三者が「買いたい」とオファーを入れるか、大株主が当該会社と共同で株の買い手を探すことが多いのですが、企業が「身売り」を考えるというのは経営者が経営にあたっている企業の株の買い手を自分独自で探すことを言います。経営の究極的な目的は株式価値(=株価)の上昇にあるわけで、経営努力によってコツコツと株価をあげるよりも高値で買ってくれるところに一括で売却した方が株主の利益に適うことがあります。
こう判断した時、経営者が株主の代理としてできるだけ高い株価で一括で買ってくれる相手を探す、これが「身売り」です。株価は高いほど、株主のメリットとなります。
今回のGLPの身売りは今年最大の不動産ディールとなるので、大変注目を集めました。手を上げそうなところにはウォーバーグ・ピンカス、ブラックストーン、KKR、RRJ、TPGといったファンドの世界的大手が並びました。ところが話がおかしくなってしまいます。
買主の候補の一つに中国勢を中心としたコンソーシアムがあったのですが、この旗振り役がなんとGLPのCEO個人そのものなのです。おまけに彼はGLPの主要な資産である中国の物件についてなんらかの拒否権を持っているのでした。
不動産の中身を熟知している内部情報精通者がビッドに参加するのでは他の会社は話をまじめに検討するだけ馬鹿らしく、今回の話は「茶番劇」だとされました。最終的な入札参加者は落札した中国勢のコンソーシアム以外はウォーバーグ・ピンカスただ一社です。
このウォーバーグ・ピンカスの応札条件が傑作で、目一杯の高値なのですが法的な拘束力を持たない、いわゆる「ノンバインディング」といわれるオファーなのです。それでも中国勢は買収価格を高くせざるをえません。当初の思惑に比べてかなり高い買い物になったはずです。今回の「茶番劇」で最も得をしたのは予想以上の高値で売れたGLPの株主ですが、同社の最大株主はシンガポールのSWF、GICです。GICは近年、運用成績が不振で苦しんでいるのですが、棚ぼたを得ることになりました。
ジャパン・トランスナショナル 代表
坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.28 9月号 2017年 掲載