不動産とITテクノロジーをかけ合わせた「不動産テック」が話題ですが、アメリカの現状を見てみましょう。キーワードは「MLS」、「ジロー」、「AWS」、「レッドフィン」です。
「MLS」とは「マルチプル・リスティング・システム」の略で、レインズのアメリカ版です。データがデジタルで入るので、物件当りの情報量はレインズより多くなっています。
「ジロー」は不動産オンライン・リスティングの会社で、類似のサービスは日本にもあります。ジローは業界最大手で登録基本料も無料なため、売り委託を受けるとまずはここへリスティングします。タブレットでジローの地図を開けば近傍で売りに出ている物件が全て表示され、マークをタップすればそのページに飛ぶので詳しい情報や多数の写真が見れます。仲介会社が提供する情報はこれで大体が手に入るので、仲介担当者に求められるのはもう情報量ではなく、情報の編集・整理能力や分析・説明能力になりつつあります。
「AWS」とは「アマゾン・ウェブ・サービス」の略です。アマゾンは非常に大型の超高速コンピュータを持っている訳ですが、その余剰の処理能力を外販することからスタートしたのがこのサービスです。契約する会社はウェブ(クラウド)を通してこれを使えます。
ここで今回の話の主役、「レッドフィン」が出てきます。同社は「オンライン不動産仲介会社」の中で今のところ最も成功しています。非常に上手にソフトを組みAWSを使いこなすことで事務効率を飛躍的に高め、その分、対面サービスへ時間を割くことと割安な手数料の提供で、業績を伸ばしています。いわゆる「ハイブリッド型」のビジネスモデルです。
効率化された事務の中には例えば提案書・ブローシャー作成があります。一匹狼が中心のアメリカの仲介業者にとって、これは一作業なのです。写真を多く載せようとすると普通のPCではすぐに動作が遅くなります。売り買いに伴う様々なスケジュールも調整しなくてはいけません。AWSの利用でこれらの全体がストレスなく行える訳ですが、いかに良いプログラムを用意できるかが死活的に重要で、レッドフィンはその開発に成功していました。
以上の話が「不動産テック」の中途段階にすぎないことは明らかで、これからもこの流れはどんどん進化していくものと思われます。一つ分かることは、どんなにITが進んでも不動産仲介においては「人(仲介業者)」がますます重要になりそうだということです。ただし「ハイブリッド化」はどんどん進み、それに乗り遅れたところは淘汰されていくでしょう。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.27 8月号 2017年 掲載