アメリカの不動産関連の中で、「モール業界の不振」が急速にクローズアップされています。モールが各所で調子が悪いという話は以前からあったのですが、年明けにメイシーズ、JCペニー、シアーズといった大手百貨店チェーンが大量閉店予定を立て続けに発表、これが直接的なきっかけとなって急にモール業界への懸念が高まりました。5月中旬には百貨店各社の決算の大幅な悪化も、相次いで報じられています。
大手百貨店群はかつては核テナントとしてモールの集客装置でしたが、今はもう昔ほどの集客力はありません。百貨店業界の落ち込みはひどく、業績の目安である「同一店舗・売上高の対前年比」は2015年年初以降、マイナス状態が続いています。靴やアパレル等の専門店の全国チェーンでも破産申請が相次いでいますが、いわゆる「実店舗」の売上減少はオンライン通販(仮想店舗)と格安店チェーンの拡大が主因と考えられます。
モールにはこれら「実店舗」の不振に「モールという業態」そのものの不振が加わります。モールはアメリカ全体で1,100カ所ありAクラスのモールはまだ良いのですが、B、Cクラスの物は今後10年で数百カ所が閉じるか、あるいはゾンビモール化すると見込まれています。 商業不動産の価格はリーマンショック後に40%下落しました。直近の8年間では価格上昇が継続して来ましたが、この間を含めてここ二、三十年、アメリカでは小売店舗が建てられすぎて来た感があります。今や人口一人当りの店舗面積でアメリカは日本やヨーロッパの6倍にもなっていて、これは「小売店バブル」なのではないかと指摘されています。
モールで大口のテナントの退店跡に誘致される業種として目立つものに、グロサリーがあります。生鮮・食品に日用品を加えた日本のスーパーに似た業態ですが、従来はグロサリーはアメリカではあまりモールのテナントにはなっていませんでした。
一画をクリニックを集めたコーナーにするケースも目立ちます。レストランへの転換も多く、フードコートが専門深化した「フードホール」も増えていて、今後のモールでは「食」がキーワードになるかもしれません。その他、料理教室のような「体験」を提供するテナントも注目されています。「オンライン通販では代替できない」という点も注目されます。しかしいろいろと試みられてはいるのですが、うまくいかないモールが増えている訳です。 お客様が来ないモールでは、広大な駐車場はガラガラです。移動式遊園地や移動式屋台、コンサートなどのイベントも行うところも出ています。これらは客寄せとなるだけではなく、イベント運営会社から受け取る駐車場使用料が家賃収入の足しになっています。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清