中国は製造業大国であり、しばらく前までは中国政府は為替を「人民元安」に誘導していました。今は放置すると「人民元安」になってしまうため、歯止めをかける事に必死です。
元安要因の一つが海外への資産逃避の動きです。中国人は自国の政治体制や社会経済体制に不信感を持っており、富裕層は海外への資産逃避を「外国に置いた貯金通帳」とも「保険」とも考えているようです。「人民元の先安観」も大きな要因で、これも今のうちに外貨建ての資産に換えておこうという動きにつながり、やはり人民元安を呼びます。
中国政府は元安に歯止めをかけるべく、まず為替介入を行いました。だいぶ減ったとはいえ、まだ3兆ドル(342兆円)もある外貨準備を原資に人民元を買い支えていたのですがそれでも足りず、今は外貨の取得理由=個別のディールにまで関与しています。
2016年の中国勢による海外不動産投資は総額330億ドル(3.76兆円)、アメリカ向けが143億ドル(1.63兆円)と最大で、以下、香港、マレーシア、オーストラリア、イギリスと続きます。
個別の大型ディールについて為替当局がそれを認めるかどうか、年初からの情勢を見ていると否認されたとみられるものもある一方、実現したものもあります。
安邦保険はトランプ大統領の娘婿、クシュナー家とマンハッタンのビルの再開発について1,000数百億円以上の出資をする方向でまとまりかけていたのですが、取りやめました。不動産取引ではありませんが、中国の商業不動産デベ最大手の大連万達によるテレビ番組制作のディック・クラークの10億ドル(1,140億円)の買収案件も破談となりました。これらはいずれも為替当局の許可なり事前合意なりが得られなかったからとされています。
一方、海南航空の親会社・HNAによるニューヨークのGMビルの28億ドル(3190億円)の買収は実現しましたし、CCランドによるロンドンの「チーズグレーター」というビルの10.2億ポンド(1,500億円)の買収も実現しました。 ただしHNAには香港上場子会社や多くの海外資産があり、CCランドはそのものが香港市場に上場(元々は重慶発祥)しているので、両社とも人民元を持ち出さずにドルやポンドを調達していたという可能性はあります。
個人による住宅購入でも、残金決済のための資金が持ち出せない例がオーストラリア、香港、マレーシアなどで多発しています。中国人を相手とした不動産ビジネスは現在、当事者間で合意に達しても当局からノーを出される可能性がある状態です。
(ドル=114円、ポンド=147円 5月9日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.24 5月号 2017年 掲載