昨年6月23日のブレグジットにより、イギリスの住宅市場は今後はかなり落ち込むのではないかと予想されていたのですが、約9か月が経ち、意外と落ち着いています。イギリス全体で見ると、概ね横ばいから若干強含みの傾向にすらあるのです。原因の一つとして挙げられているのは「供給不足」です。
特にホームビルダー(建売業者)は事業用土地を大量に保有しながら開発を遅らせているとして非難を浴びていますが、ビルダー側は開発の許認可取得に手間暇と時間がかかりすぎるという制度的な問題のせいだと反論しています。
イギリス全体の市場動向がまあまあな中、ロンドンだけは一人負けで、特にセントラル・ロンドンと呼ばれる中心部の高級住宅地で価格が大きく下落しています。チェルシーとかケンジントンといった、日本でいうなら麻布や広尾に相当する地区です。
両地区とも、2月の時点で前年比でほぼ12~14%下落しています。ただしこれらの地区ではブレグジット以前から価格下落が始まっていた点は注意を要します。それまで高騰を続けていたセントラル・ロンドンで買い手が急に少なくなったのは2014年の秋で、その頃から市場をけん引していた海外からの投資家の姿が急減しました。「ブレグジットを境に下落速度が大きく加速した」というのが、正確な表現です。
ブレグジット問題に加えて税制変更の影響もあります。2014年暮れに「豪邸税」、2016年春に「住宅の投資用取得の際の高率課税」が導入され、現在では例えば750万ポンド(10.4億円)の住宅をセカンドハウスあるいは賃貸向け投資用住宅として買うと最大100万ポンド(1.38億円)ものスタンプ税(印紙税の一種)がかかってしまうのです。
セントラル・ロンドンの住宅価格を外人投資家の目線で「外貨建て」で見てみましょう。ポンドはドルに対して同じ時期に14%前後下落していますので、チェルシーやケンジントンの住宅をドル建てで見た時の下落幅は21~25%にもなります。しかしこの間、日本円や人民元に対してポンドは対ドルほどの下落はしていない為、円建てや人民元建てで見た時の住宅価格の下落幅はドル建てほど大きくなりません。
高額な住宅の価格がここまで下がると、昨年第4四半期には「買い」の動きも出てきました。このような動きが正解なのかどうかは、まだ分かりません。
(ポンド=138円 3月29日近辺のレート)
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.23 4月号 2017年 掲載