アメリカに昔は存在しなかった「大家業」という業態

 オフィスビル事業の組み立て方は国により、あるいは時代により異なります。

 日本の場合、昔は三井不動産や三菱地所のような「大家業」は用地確保から許認可、ビル建設(発注)、リーシング、管理、開発・保有にかかわる資金調達等の全てを負担することが基本でした。

 

 日本のビル会社のトップが自分たちと同じ「大家業」の会社に会うつもりでアメリカへの視察団を組んだ時、連れて行かれた先はビルの管理運営会社でした。

 ここではない、「このビルの開発を決断した会社」に会いたいと言ったら、銀行に連れて行かれました。

 そうではない、「ビルの所有権を持っている会社だ」と頼むと、生保(当時、アメリカの生保は盛んにビル投資をしていた)に連れて行かれました。

 さらに驚いたことには、面会した生保の人間はビルの「所有者」なのに自分のビルのテナントの名前をろくに言えなかったのです。

 

 以上の話はたぶん昭和40年前後の話だと思います。要するに当時、アメリカでは「大家業」という包括的な業態は存在しておらず、ビルの所有と経営は分離していたのでした。

 

 現代のアメリカで、「『自ら開発』も行う大家業」という点で最も類似しているのは「オフィス・リート」です。

 

 アメリカでもリートはもともとは今の日本同様、ただの「箱」であり、外部の運用会社に経営を委託していた(外部運用)のですが、これらを内部で抱えた方が経営コストが安くなるという理由で「内部運用」が認められました。これによりリートは経営者も従業員もいる、外見的には普通の会社と同じ体裁になったのです。

 

 その後、それまでは外からビルを購入することしか認められていなかったのですが、自分で開発した方がビルの取得コストが安くなるという理由でリートによる「自ら開発」が認められるようになりました。この結果、オフィス・リートは日本の「大家業」と非常に近い形態になったわけです。今はリートは、法的には法人税法上のリート適格要件を満たした、通常の「会社」を指すようになっています。名実ともに「箱」から「会社」となったのです。

 

 それぞれクセが違いますが、アメリカのオフィス・リート大手にはボルナドやボストン・プロパティーズ、SLグリーンなどがあります。

 

            ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY real-news Vol.13 6月号 2016年 掲載