主なテナントを固めてから着工するのがアメリカでの基本

 アメリカでは(他の多くの経済成熟国でもそうなのですが)、オフィスビルは「主なテナントを固めてから着工する」のが王道です。テナント未確定のうちに着工するのは「スペキュラティブ・インベストメント(投機的投資、博打的投資)」と呼ばれるほどです。

 

 これには不動産融資の慣行が大きく絡んでいます。アメリカの商業不動産は多くの場合、プロジェクト専用のペーパー子会社(SPC)を設立し、資金はその子会社が借り入れる形を取ります。ビルからの収入だけでは銀行への返済が出来ない事態に陥った場合、親会社はその当該子会社を倒産させ、その結果、ビルの所有権は銀行に移ります。そして親会社にはそれ以上の返済を求められないのです。この「それ以上の返済を求められない」事を「ノン・リコース(非遡求)」と言い、このようなローンを「モーゲージ・ローン」と呼びます。日本の「不動産担保融資」とは別物です。

 

 ちなみにノン・リコースローンで史上最大の踏み倒しを行った不動産会社は、カナダのデベ最大手、オリンピア・ヨークです。同社はロンドンのカナリー・ウォーフ(ドッグランド再開発)プロジェクトで大失敗をし、1992年、当時のレートで約1兆円を踏み倒しました。

 

 アメリカでは「スペキュラティブ・インベストメント」は主にニューヨークとサンフランシスコで見られ、特に前者で近年、これが盛んです。しかし一部のプロジェクトは竣工後もかなりの空室を抱えるようになりました。代表例はワン・ワールドトレードセンターです。部分オープン後6ヶ月経った時点でまだオフィス部分の3分の1が空室で、今後のテナント付けの展望が見えません。同ビルはアルカイダによる同時多発テロで倒壊したワールド・トレードセンター跡地に建てられた、高さが541mとアメリカを含む西半球で一番背が高いビルです。

                       ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY real-news Vol.3 8月号 2015年 掲載