日本ではテナントが固まっていなくても賃貸用オフィスビルの建築を着工する例が過半であり、これは世界の先進国・経済成熟国の常識から見ると例外的な訳ですが、なぜ日本ではこのような「スペキュラティブ(投機的・博打的)なインベストメント」が多いのでしょうか。その最大の理由は「それでもなんとかなってきた」からでしょう。
他の理由も上げたいと思います。それは事業にかかわる「土地代」の問題です。日本の大手デベは多くの場合、用地を買うなり別の形のコストを払って事業機会を確保します。用地確保段階で事業費全体の大体まあ3割程度を支出し、従ってこの段階でもう後戻りはできなくなっています。つまり日本のデベがスペキュラティブなデベロップメントを決断しているタイミングは建築工事着工時ではなく、用地取得時なのです。
一方、アメリカを例にあげると、オフィスビルは借地上に建っている事が非常に多い事が分かります。アメリカの借地の慣行では「権利金」とか「借地権設定対価としての一時金」のようなものはありません。年間の借地料というのは、土地利用料の分割払いのようなものですし、そもそもの土地価格が東京と比べると非常に安く、さらにその分割払いですから「事業用地確保」のためのコストは日本でのコストと比べると微々たる小ささなのです。
その他の理由を含めて一言でいうと「マーケットの構造が異なる」と言えます。世界の常識は日本では非常識であり、従って日本では通じません。「テナントが決まらなければ土地は買わない」という姿勢では、日本ではお話になりません。海外のデベは日本でのこの常識について来られず、従って世界に名だたるデベでも日本に進出している所は皆無です。
ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清
三井不動産リアルティ㈱発行
REALTY real-news Vol.3 8月号 2015年 掲載