急速に拡大したアメリカの一戸建て賃貸住宅ファンド

 2月、ニューヨーク証券取引所に「一戸建て住宅賃貸」最大手のインビテーション・ホームズが新規上場した。同社はファンド大手・ブラックストーンの傘下で、保有・賃貸する住宅は48,431戸だ。

 

 ちなみに同業の第二位はほぼ同戸数の4.8万戸(アメリカン・ホームズ・4・レント)、第三位は3万戸(コロニー・スターウッド・ホームズ)で、以上が御三家である。

 

 「一戸建て住宅賃貸」というビジネスが国際的なメディアで最初に注目されたのは2013年で、当時の記録を見るとこの時点でブラックストーンは2万戸、合併前のコロニーキャピタルは8000戸に投資済みだとされている。今回の開示によれば、インビテーション・ホームズは累計約100億$(1.12兆円)を住宅取得と取得後の修理のために支出している。

 

 別の資料によれば同社と同じ、いわゆる「大手投資家(ファンド等)」全体による賃貸目的の一戸建て住宅への投資は、今日までで累計320億ドル(3.58兆円)に上る。

 

 アメリカ以外には、このように超巨大なスケールで「一戸建て住宅」の賃貸事業を行っている会社が存在する国はない。賃貸マンションならともかく一戸建てで行うのであるから、不動産賃貸業としての手間ひまを考えると、気が遠くなるような規模だ。

 

 一戸建て住宅賃貸が大規模に成立したきっかけは例によってリーマンショックで、これによりローンを払えずに手放されて市中に出回る中古住宅が激増、市場価格は大きく下落した。しかし銀行はローン融資に厳しい姿勢をとるようになり、一般消費者にとってはせっかく住宅価格が下がったというのに買いづらい状態となっていた。

 

 ここへ登場したのが俗に「ウォール街のマネー」と呼ばれる資金だ。彼らは大量の現金を持っており、市場在庫の中から優良なものを随意に選んで買うことができた。一般の購入者からの申し込みにはたいていの場合、「ローンの融資承認」等の停止条件がついていたので、ファンドは簡単に競り勝つことができたからである。

 

 その一方で仕入れた住宅の「賃借人」にも不自由しなかった。差し押さえにより持ち家を手放してしまった人間たちがアメリカ中に溢れていたためだ。「一戸建て住宅賃貸」への投資は魅力的な利回りをオファーすることができ、ファンド群は資金調達にも困らなかった。

 

 債務者がローンを支払えなかったことをネタにしてこのようなビジネスを日本ですると非難をあびそうな気もするが、アメリカではそのような非難は一切起きていない。

 

 エグジットの取り方も、興味深い。

 

 まずこの業界では中小規模のファンドの合従連衡が起きた。数千戸単位まで成長したファンドが大手にポートフォリオをまるまる転売したり、あるいは会社ごと身売りして吸収合併される例も見られた。

 

 「リート成り」して上場し、株式売却の形でエグジットを取る方法は日本人にもわかりやすい。今回のインビテーション・ホームズはその例だ。

 

 一方、そのインビテーション・ホームズがエグジットとしてかつて採った方法は「家賃収入を裏付けとした新種の債券の発行」だった。2013年にこれを発表した時はこれは新種のアセットクラスの誕生かと騒がれたのだが、まだあまり普及してない。

 

 さて現時点での中間総括をしてみよう。

 

 アメリカの住宅市場は回復を遂げ、現在の価格水準では市場で新たに購入して賃貸に出してもうまみは小さいし、大きな値上がり益ももう期待薄だ。一部の会社はまだ購入を続けているが、全般的に見ると投資のペースは一段落している。

アメリカでも以前は「一戸建て賃貸住宅」を手がけるのは個人富裕層か、せいぜい地域限定で展開している中小規模の会社しかなかった。全米の一戸建て賃貸住宅における大手投資家のシェアは1-2%と言われ、この点では今後の拡大の余地はまだありそうにも見える。

 

 株式市場を見ると、今回のインビテーションホームズの新規上場は投資家から概ね歓迎されたと言ってよい。「歓迎」の理由の一つにあげられているのはアメリカの持ち家率が下落傾向にある事で、賃貸住宅への需要は今後も根強いと考えられる。

 

 もう一つ大きいのは、政府系金融機関のファニーメイが先日、インビテーションホームズに対して10億$(1120億円)の保証をするとした事だ。これによりこのビジネスが「住宅バブル破裂に伴う短期的なあだ花ではない」とファニーメイも認知したと取られている。

(ドル=112円 2017年2月7日近辺のレート)

                 ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行 

REALTY PRESS Vol.39 2017年4月

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大幅に下落したロンドン中心部の高額な住宅の価格

 昨年6月23日のブレグジットにより、イギリスの住宅市場は今後はかなり落ち込むのではないかと予想されていたのですが、約9か月が経ち、意外と落ち着いています。イギリス全体で見ると、概ね横ばいから若干強含みの傾向にすらあるのです。原因の一つとして挙げられているのは「供給不足」です。特にホームビルダー(建売業者)は事業用土地を大量に保有しながら開発を遅らせているとして非難を浴びていますが、ビルダー側は開発の許認可取得に手間暇と時間がかかりすぎるという制度的な問題のせいだと反論しています。

 

 イギリス全体の市場動向がまあまあな中、ロンドンだけは一人負けで、特にセントラル・ロンドンと呼ばれる中心部の高級住宅地で価格が大きく下落しています。チェルシーとかケンジントンといった、日本でいうなら麻布や広尾に相当する地区です。

 

 両地区とも、2月の時点で前年比でほぼ12~14%下落しています。ただしこれらの地区ではブレグジット以前から価格下落が始まっていた点は注意を要します。それまで高騰を続けていたセントラル・ロンドンで買い手が急に少なくなったのは2014年の秋で、その頃から市場をけん引していた海外からの投資家の姿が急減しました。「ブレグジットを境に下落速度が大きく加速した」というのが、正確な表現です。

 

 ブレグジット問題に加えて税制変更の影響もあります。2014年暮れに「豪邸税」、2016年春に「住宅の投資用取得の際の高率課税」が導入され、現在では例えば750万ポンド(10.4億円)の住宅をセカンドハウスあるいは賃貸向け投資用住宅として買うと最大100万ポンド(1.38億円)ものスタンプ税(印紙税の一種)がかかってしまうのです。

 

 セントラル・ロンドンの住宅価格を外人投資家の目線で「外貨建て」で見てみましょう。ポンドはドルに対して同じ時期に14%前後下落していますので、チェルシーやケンジントンの住宅をドル建てで見た時の下落幅は21~25%にもなります。しかしこの間、日本円や人民元に対してポンドは対ドルほどの下落はしていない為、円建てや人民元建てで見た時の住宅価格の下落幅はドル建てほど大きくなりません。

 

 高額な住宅の価格がここまで下がると、昨年第4四半期には「買い」の動きも出てきました。このような動きが正解なのかどうかは、まだ分かりません。

 

(ポンド=138円 3月29日近辺のレート)

              ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

 

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY real-news Vol.23 4月号 2017年 掲載

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