マリオットによるスターウッド買収確定までの経緯

 最終局面で中国の安邦保険による一波乱があったが、ホテル大手のマリオットによるスターウッドの買収は、結局、マリオットによる買収で決着した。よほどのことがない限り、本件はこのままクロージングされるだろう。この話を時系列に沿って整理したい。

 

 スターウッドが擁するブランドはシェラトン、ウエスティン、セントルジス、Wホテルほかで、室数は35.6万室、世界で第7位のホテルチェーンだ。同社は昨年4月、「自分自身の丸ごとの身売りを含め、保有不動産の売却やブランド別の売却、M&A等のあらゆる選択肢を検討する」として投資銀行のラザードと顧問契約を結んだ。

7月にはインターコンチネンタルホテルおよびウィンダムが何らかの交渉に入っていた事が表面化したが、これらの話は両方とも実らなかった。後日、分かった事だが、スターウッドの売却話は可能性があると思われる世界のあらゆる会社に持ち込まれていたという。

 

 10月の末に浮上した買主の候補はハイアット、錦江飯店、HNA(海南航空の親会社)、中国投資公司だ。しかしハイアットは室数15.8万室と小ぶりで、また創業家一族の意思統一も取れていない点が問題と指摘された。中国の3社は「当局が中国勢同士が競り合うことで買収価格がつり上がらないように指導しているため」に話が遅れているとされた。

 

 ここで今まで伏兵だったマリオットが、11月の半ばに大逆転をする。スターウッドが同社からの122億$(1.33兆円)の買収オファーを受け入れると、突然発表したのだ。本件について当初は後ろ向きだったマリオットが態度を一転させたのは、合併効果によるコスト削減と、台頭著しく、価格決定権をホテル会社から奪いつつあるオンライン予約サイト会社に対し、巨大化により正面から対抗できると考えたからとされる。

 

 マリオットはリッツカールトン他を擁し、室数は73.2万室、ヒルトンに続く世界で第2位だ。スターウッドと合併すると、約110万室という、世界で断トツの一位である超大型ホテルチェーンとなる。

 

 合併に伴う手続き等、話は順調に進むものと、誰もが思っていた。

 

 ところが今年3月、事態は一変する。以前、ニューヨークの超高級・超名門ホテルであるウォルドルフ・アストリアを購入したことで名を上げた中国の安邦保険が突如、マリオットを上回る好条件で買収したいとスターウッドに対し、オファーしたのだった。

 

 安邦保険のオファー価格は128億$(1.40兆円)、それも「全額現金」による支払いで、スターウッド1株につき76$というものだ。マリオットからの条件は、「現金と株の併用払い(「スターウッド1株につき、現金2$+マリオット株0.92株」)で、この時点のマリオットの株価では67.22$にしかならない。「破談料・4億$(436億円)」を考慮してもまだ相当な魅力のあるオファーである。安邦保険は念を入れ、オファーを76$から78$に引き上げた。

 

 対抗するマリオットはカウンターのビッドを入れた。現金部分を増やした「現金21$+マリオット株0.80株」でこれは79.53$に相当、安邦保険のオファーを上回った。

 

 すると、安邦保険がオファーを上積みした。一旦81$とした後、さらに82.75$に引き上げた。ところがここで大異変が起きた。中国の有力政治・経済誌から「安邦保険には中国の保険業規制当局から買収許可が下りない可能性がある」との指摘が出たのだ。根拠は保険会社の海外資産保有限度だが、これは極めてあいまいな規定で、資産を時価で計算するのか取得価格で計算するのか、あるいは為替レートは何を用いるのかが、明示されていない。

 

 さらにややこしいことに、保険業規制当局は今回の話をブロックしたい模様なのだが、商務省と国家発展改革委員会は中国企業の国際化を推進している。立場が真逆なのだ。

 

 アメリカ国内でも問題が起きる可能性があった。「安全保障上の問題」だ。例えば部屋に盗聴器を仕掛ける、暗殺者に対して何らかの便宜を図る等の懸念で、アメリカはこれを本気で心配している。ウォルドルフ・アストリアは以前は大統領がニューヨークに滞在するときの定宿だったが、安邦保険による買収でオバマ大統領は先日、別のホテルに泊まった。

 

 このような議論が噴出している中、安邦保険は突然、オファーを撤回した。理由は「様々な市場の条件を判断して」としているが、実のところは不明だ。高くなりすぎたからとか、ドルが用意できなかったとか、あるいは英語が不自由な呉会長が神経戦に耐えられなくなったとか、諸説ある。安邦保険の呉会長は「鄧小平の孫娘と結婚した」点が強調されることが多いが、肝心の株主構成がよくわからない点は今回のディールではマイナスだった。

 

 結局、本件はマリオットによる136億$(1.48兆円)の買収ということで決着した。マリオットにしてみれば、安邦保険の乱入で、一声15億$(1640億円)の上積みをするハメになった訳である。

($=109円 2016年4月20日近辺のレート)

 

               ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

 

三井不動産リアルティ㈱発行 

REALTY PRESS Vol.36 2016年6月 掲載

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中国では住宅市場の好転が広がる一方、不動産株は下落

 中国の不動産市場を語る時の基本は、住宅市場です。国家統計局が「70大中都市価格指数」を毎月発表しているので、議論がしやすいのです(正確性には疑問を持たれていますが)。商業不動産市場は非常に大きな問題を抱えているようなのですが、これは別稿にします。

 

 一つの節目となった「70大中都市価格指数・2016年4月分」を見てみましょう。4大メガ都市、すなわち北京、上海、広州、深センは絶好調です。特に深センでは去年暴落した株式市場から投資資金が逃げてきたこともあり、前年同月比で62.4%上昇とバブル気味です。

 

 上海は前年同月比で28.0%上昇です。深セン市と上海市は不動産市場の抑制策に乗り出しました。その効果でしょうか、両市とも「前月比」での上昇はそれほど大きくありません。

 

 北京と広州の前年同月比はそれぞれ18.3%上昇、17.4%上昇です。

 

 注目されるのは、これらメガ4都市の次のクラスの都市にも住宅価格上昇の傾向が広がってきている事です。「前月比」で見た時に価格上昇したのは70都市中で65都市もあり、下落したのは5都市にすぎません。「省都」クラスの都市では、まだ住宅価格が本格上昇していないのに、マンション用地が急騰、土地価格はもうバブル状態ともされています。

 

 しかし「二極化」は依然として解消していません。「65都市で前月比で価格上昇した」といっても、前年比では依然としてマイナスという都市が約半分あります。また地方都市では地方政府が率先して、相当乱暴な仕方で販売をしているとも言われています。大幅な金融緩和下、ローンに関する知識がない農民に対して頭金まで融資して、無理をして買わせてしまうような例です。すぐに不良債権化するであろう事が目に見えています。

 

 株式市場では、不動産株は年初比で約20%下落しています。投資家は今の住宅価格上昇は長続きしないと見ているわけです。これも気になる話と言えます。

 

 総括すると、中国の住宅市場は表面的には改善に向かいつつありますが、一方で問題含みでもあるようです。

 

            ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY

real-news Vol.14 7月号 2016年 掲載

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