2016年3月執筆実績ブログ

同じくらい重要視されている「住宅価格指数」

 アメリカには代表的な「住宅価格指数」が2つあるが、両方とも日本人にとっては信じられない話が指数の前提になっている。

 

 「住宅は建物が古くなっても安くならない(築年減価がない)」という話だ。実際、アメリカのマーケットはそうなっている。

 

 この結果、「住宅価格指数」を作る事は原理的にはとても簡単だ。

 ある中古住宅が取引された時にその住宅の「過去の契約時点と売買価格」が分かりさえすれば、その間の住宅価格の「変化率」が分かる。サンプルを増やせば「指数化」出来る。えらく単純な話なのだ。

 

 手間がかかるのは、当該物件の「過去の契約時点と売買価格を調べる」事だ。

 

 「S&P/ケース・シラー住宅価格指数(通称:ケース・シラー指数)」では、各登記所においてファイルされた売買契約書から住所、契約日、売買金額等のデータを集めてデータベース化し、新規の取引があった時に住所をてがかりにこのデータベースと照合している。

 

 「FHFA(連邦住宅金融庁)住宅価格指数」では、公的金融機関であるファニーメイとフレディマックに持ち込まれた住宅ローンに添付されたデータがデータベース化されていて、新しく持ち込まれた住宅ローンの担保物件について、住所をてがかりに照合している。

 

 2つの指数には一長一短があるが、2000年代中盤の住宅ブーム時の価格上昇の激しさをより正確に反映した「ケース・シラー指数」で議論される事の方が多い。

 この指数は「10都市分」と「20都市分」が発表されている。最近の議論では主に「20都市分」が使われているので、こちらでこの15年間の住宅価格の推移を見ると次の様になる。

 

 アメリカの住宅価格は2006年4月に高値のピークを打った。これは中古住宅売買件数(既存住宅販売)がピークを打った2005年9月の7か月後だ。

 しばらくごくなだらかに下落した後、2007年後半から急落を始め、リーマンショック後の2009年5月に一番底、その後2012年2月に二番底を付けた(この時がボトムで、ピーク比66%だった)。

 ここからほぼ持続的な上昇に転じ、昨年12月発表の「10月分」ではピーク比88%まで回復した。

 

 これらは「2000年1月=100」として指数化されている。このような住宅価格指数が2、3か月遅れと、リアルタイムにかなり近い形で得られる事は驚異的だ。イギリス他多くの国でも住宅価格の変動はモニターされているが、ここまで高い精度ではない。

 

 技術的な難しさはあるが、ぜひ日本でも説得力のある価格指数が欲しいものだ。

 

                ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

 

三井不動産リアルティ㈱発行 

REALTY PRESS Vol.35 2016年3月

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アメリカで最も重要な住宅統計である「既存住宅販売」

 日米の中古住宅の流通量を比較したい。

 

 アメリカの中古住宅売買件数は、昨年暮れの時点で、年換算で約530万件強のペースである。日本の中古住宅流通件数は全数把握ではないかも知れないが年17万件(総務省「住宅・土地統計調査」2013年)程度なので、アメリカは日本のなんと31倍もある事になる。なおアメリカの人口は3.2億人で、日本の2.5倍だ。

 

 近時、アメリカの中古住宅売買件数がピークだったのは2005年9月で、年換算すると726万件のペースだった。サブプライムショック、リーマンショックを経た後のボトムは2010年7月で同345万件とピーク時から半減、これが、約530万件まで回復したわけだ。

 

 新築住宅着工の方はアメリカは年換算約117万戸のペース、日本は年88万戸(国土交通省「住宅着工統計」2014年)程度だ。

 

 以上、これらの数字は日米ともブレが大きいので、比較した時の「倍率の程度」は時期によりかなり変動する。しかし「中古住宅流通」はアメリカの方が比較にならないほど多く、「新築住宅着工」では両国間の差はずっと小さいと言える。

 

 住宅市場の活況さの度合いは景気をビビッドに反映するため、各種の住宅統計は非常に重要視されている。中でも最も重要視されているのは前出の「中古住宅の売買件数」だ。

 

 この統計を発表しているのは不動産仲介業者の全国団体、「全米リアルター協会(NAR・ナール)」で、NARは「中古住宅」の事を「既存住宅(existing house)」、その合計取引件数を「既存住宅販売」と呼んでいる。日本語で言うなら「中古住宅売買件数」である。

 

 日本でもアメリカを倣った「既存住宅」という言い方は官庁系を中心にかなり広まっている。しかし肝心のアメリカ人の方はこの「既存住宅(existing house)」という表現にかなりの不自然さを感じているようで、新聞等のメディアでは「以前に所有されていた住宅(previously-owned house)」と言い換えている。

 

 まあ不自然さとしては似たような物だ。

 反対語は「新築住宅(newly-built house)」である。

 

 「既存住宅販売」を「1件」としてカウントするタイミングは、残金決済・引き渡し時だ。この時点で「契約が完了した」とされる。

 

 「契約書にサインした時点(日本の本契約)」での件数を集計した数字は「仮契約指数(仮販売指数)」として、発表される。

 ローン否認等があるので精度は若干落ちるが、「既存住宅販売」よりも1か月半から2か月、先行した数字になるので、最近では「仮契約指数」の方も大きく重視される傾向にある。

 

               ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行 

REALTY PRESS Vol.35 2016年3月

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海外のホテル業界で多発するM&Aの背景

 ホテル業界での最近の最も大きな話題と言えば、マリオットがスターウッドを122億ドル(1.38兆円)で買収した事でしょう。 これは先行したハイアット、錦江飯店、中国投資公司等を押えた逆転買収で、スターウッド側のアドバイザーだった投資銀行・ラザードの辣腕が光ります。

 

 この合併で両社を合算すると5500棟、110万室を擁する世界最大のホテル会社が誕生します。2位はヒルトンで73.6万室、3位はインターコンチネンタルで70.2万室です。

 

 このディールが発表された3週間後にはヨーロッパ最大のホテル会社であるフランスのアコーが、サボイやラッフルズといった名門ホテルを擁するFRHIを26億ユーロ(3200億円)で買収する事が発表されました。この他にも中堅以下でM&Aが多発しています。

 

 ホテル業界でのM&A多発の原因は2つです。

 

 まず高まる稼働率を背景に、ホテルの現物不動産としての価格が高くなってしまいました。M&Aなら、簿価をそのまま引き継いで取り込めます(但し配当負担は増えます)。

 もう一つの狙いは巨大化する事によってシステム費負担、特に予約システムへの投資の負担を薄めようという物です。

 

 現在、いわゆる「オンライン・ホテル予約サイト」経由による予約はホテルの全ての予約件数の40%と言われています。室料の価格主導権はこれらのサイトに移りつつある面があり、ホテル会社にとっていかに直販比率を高めるかは至上命題なのです。

 当初スターウッドの買収に乗り気ではなかったマリオットが買収に踏み切った最大の要因は、「110万室」という巨大さなら、オンライン予約サイトに正面から挑めると考えたことでした。

 

 その他の近年の動きとしては「ブティックホテル(ラブホテルの事ではない)」と呼ばれる、小型でサービスを絞りながらも高級路線を狙ったホテルの台頭があります。

 

 一言で表現すると「尖ったホテル」です。元々は独立系のホテル会社から始まりましたが、今は大手チェーンも手掛け、例えば先のスターウッドの「Wホテル」ブランドがその一つです。

 

(ドル=113円 ユーロ=123円 3月1日近辺のレート使用)

                      ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY real-news Vol.10 3月号 2016年 掲載

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同じくらい重要視されている「住宅価格指数」

 アメリカには代表的な「住宅価格指数」が2つあるが、両方とも日本人にとっては信じられない話が指数の前提になっている。

 

 「住宅は建物が古くなっても安くならない(築年減価がない)」という話だ。実際、アメリカのマーケットはそうなっている。

 

 この結果、「住宅価格指数」を作る事は原理的にはとても簡単だ。

 ある中古住宅が取引された時にその住宅の「過去の契約時点と売買価格」が分かりさえすれば、その間の住宅価格の「変化率」が分かる。サンプルを増やせば「指数化」出来る。えらく単純な話なのだ。

 

 手間がかかるのは、当該物件の「過去の契約時点と売買価格を調べる」事だ。

 

 「S&P/ケース・シラー住宅価格指数(通称:ケース・シラー指数)」では、各登記所においてファイルされた売買契約書から住所、契約日、売買金額等のデータを集めてデータベース化し、新規の取引があった時に住所をてがかりにこのデータベースと照合している。

 

 「FHFA(連邦住宅金融庁)住宅価格指数」では、公的金融機関であるファニーメイとフレディマックに持ち込まれた住宅ローンに添付されたデータがデータベース化されていて、新しく持ち込まれた住宅ローンの担保物件について、住所をてがかりに照合している。

 

 2つの指数には一長一短があるが、2000年代中盤の住宅ブーム時の価格上昇の激しさをより正確に反映した「ケース・シラー指数」で議論される事の方が多い。

 この指数は「10都市分」と「20都市分」が発表されている。最近の議論では主に「20都市分」が使われているので、こちらでこの15年間の住宅価格の推移を見ると次の様になる。

 

 アメリカの住宅価格は2006年4月に高値のピークを打った。これは中古住宅売買件数(既存住宅販売)がピークを打った2005年9月の7か月後だ。

 しばらくごくなだらかに下落した後、2007年後半から急落を始め、リーマンショック後の2009年5月に一番底、その後2012年2月に二番底を付けた(この時がボトムで、ピーク比66%だった)。

 ここからほぼ持続的な上昇に転じ、昨年12月発表の「10月分」ではピーク比88%まで回復した。

 

 これらは「2000年1月=100」として指数化されている。このような住宅価格指数が2、3か月遅れと、リアルタイムにかなり近い形で得られる事は驚異的だ。イギリス他多くの国でも住宅価格の変動はモニターされているが、ここまで高い精度ではない。

 

 技術的な難しさはあるが、ぜひ日本でも説得力のある価格指数が欲しいものだ。

 

                ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

 

三井不動産リアルティ㈱発行 

REALTY PRESS Vol.35 2016年3月

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アメリカで最も重要な住宅統計である「既存住宅販売」

 日米の中古住宅の流通量を比較したい。

 

 アメリカの中古住宅売買件数は、昨年暮れの時点で、年換算で約530万件強のペースである。日本の中古住宅流通件数は全数把握ではないかも知れないが年17万件(総務省「住宅・土地統計調査」2013年)程度なので、アメリカは日本のなんと31倍もある事になる。なおアメリカの人口は3.2億人で、日本の2.5倍だ。

 

 近時、アメリカの中古住宅売買件数がピークだったのは2005年9月で、年換算すると726万件のペースだった。サブプライムショック、リーマンショックを経た後のボトムは2010年7月で同345万件とピーク時から半減、これが、約530万件まで回復したわけだ。

 

 新築住宅着工の方はアメリカは年換算約117万戸のペース、日本は年88万戸(国土交通省「住宅着工統計」2014年)程度だ。

 

 以上、これらの数字は日米ともブレが大きいので、比較した時の「倍率の程度」は時期によりかなり変動する。しかし「中古住宅流通」はアメリカの方が比較にならないほど多く、「新築住宅着工」では両国間の差はずっと小さいと言える。

 

 住宅市場の活況さの度合いは景気をビビッドに反映するため、各種の住宅統計は非常に重要視されている。中でも最も重要視されているのは前出の「中古住宅の売買件数」だ。

 

 この統計を発表しているのは不動産仲介業者の全国団体、「全米リアルター協会(NAR・ナール)」で、NARは「中古住宅」の事を「既存住宅(existing house)」、その合計取引件数を「既存住宅販売」と呼んでいる。日本語で言うなら「中古住宅売買件数」である。

 

 日本でもアメリカを倣った「既存住宅」という言い方は官庁系を中心にかなり広まっている。しかし肝心のアメリカ人の方はこの「既存住宅(existing house)」という表現にかなりの不自然さを感じているようで、新聞等のメディアでは「以前に所有されていた住宅(previously-owned house)」と言い換えている。

 

 まあ不自然さとしては似たような物だ。

 反対語は「新築住宅(newly-built house)」である。

 

 「既存住宅販売」を「1件」としてカウントするタイミングは、残金決済・引き渡し時だ。この時点で「契約が完了した」とされる。

 

 「契約書にサインした時点(日本の本契約)」での件数を集計した数字は「仮契約指数(仮販売指数)」として、発表される。

 ローン否認等があるので精度は若干落ちるが、「既存住宅販売」よりも1か月半から2か月、先行した数字になるので、最近では「仮契約指数」の方も大きく重視される傾向にある。

 

               ジャパン・トランスナショナル 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行 

REALTY PRESS Vol.35 2016年3月

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海外のホテル業界で多発するM&Aの背景

 ホテル業界での最近の最も大きな話題と言えば、マリオットがスターウッドを122億ドル(1.38兆円)で買収した事でしょう。 これは先行したハイアット、錦江飯店、中国投資公司等を押えた逆転買収で、スターウッド側のアドバイザーだった投資銀行・ラザードの辣腕が光ります。

 

 この合併で両社を合算すると5500棟、110万室を擁する世界最大のホテル会社が誕生します。2位はヒルトンで73.6万室、3位はインターコンチネンタルで70.2万室です。

 

 このディールが発表された3週間後にはヨーロッパ最大のホテル会社であるフランスのアコーが、サボイやラッフルズといった名門ホテルを擁するFRHIを26億ユーロ(3200億円)で買収する事が発表されました。この他にも中堅以下でM&Aが多発しています。

 

 ホテル業界でのM&A多発の原因は2つです。

 

 まず高まる稼働率を背景に、ホテルの現物不動産としての価格が高くなってしまいました。M&Aなら、簿価をそのまま引き継いで取り込めます(但し配当負担は増えます)。

 もう一つの狙いは巨大化する事によってシステム費負担、特に予約システムへの投資の負担を薄めようという物です。

 

 現在、いわゆる「オンライン・ホテル予約サイト」経由による予約はホテルの全ての予約件数の40%と言われています。室料の価格主導権はこれらのサイトに移りつつある面があり、ホテル会社にとっていかに直販比率を高めるかは至上命題なのです。

 当初スターウッドの買収に乗り気ではなかったマリオットが買収に踏み切った最大の要因は、「110万室」という巨大さなら、オンライン予約サイトに正面から挑めると考えたことでした。

 

 その他の近年の動きとしては「ブティックホテル(ラブホテルの事ではない)」と呼ばれる、小型でサービスを絞りながらも高級路線を狙ったホテルの台頭があります。

 

 一言で表現すると「尖ったホテル」です。元々は独立系のホテル会社から始まりましたが、今は大手チェーンも手掛け、例えば先のスターウッドの「Wホテル」ブランドがその一つです。

 

(ドル=113円 ユーロ=123円 3月1日近辺のレート使用)

                      ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY real-news Vol.10 3月号 2016年 掲載

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