サブプライム問題の拡大の裏側と「集団的なモラルハザード」

 前号ではサブプライム・ローンとそれから組成するサブプライム証券、およびその破たんの瞬間であるサブプライム・ショック(2007年6月と8月)の話について、端折りながら、かつ部分的に脚色をしながら書いた。

 

 今回はなぜサブプライム問題がかくも盛大に拡大したかを、話をあちこちへ飛ばしながら進める。なぜ「あちこちへ飛ばすのか」と言えば、この問題はいろいろな事項が絡みあって、あたかも巨大トルネ―ドのような形で成長・拡大したからだ。

 ただしここでは話を「不動産周り」にとどめる。CDO(債務担保証券)やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ/倒産保険)といった金融上のツールはサブプライム問題を語る上で必要ではあるのだが、あまりに金融寄りの話で不動産業界からは遠くなってしまう。

 

 さて話の起点を1998年としよう。前年に発生した東アジア通貨危機に続き、この年にはロシア・ルーブル危機が発生した、そのあおりで LTCMという超大型のヘッジファンドが破たんした。この事件により銀行は「資産を流動化する(証券化する)」ことの重要性を強く認識する。この認識がのちに「サブプライム証券」に結びつく。

 

 LTCM事件からさほど間をおかず、2000-01年には「ITバブル」が破裂する。アメリカの中央銀行であるFRBは直ちに大胆な利下げに踏み切った。

 

 この結果、住宅ローンの世界で、重要なことが起こった。新規ローンの金利が既に借りているローンの金利よりも大幅に低くなったのだ。当然、借り替えが多発する。

 

 月々の元利返済額や満期返済期日を変えずに、より大型のローンに借り替えることも可能だった。以前のローンの残債と新たに借り替えたローンの差額で高級自動車を買った人も多くいた。家の改築費に充てたり、子供の大学の授業料に充てた人もいた。低金利ローンへの借り替えによるマジックだ。

 

 さて、アメリカでは「自分の家を買う」というのは、基本的には白人のカルチャーだ。前記の白人たちの動きを見て、マイノリティたちは「住宅を借りて住むのではなく、ローンで買って所有していると、まるでマジックのようなことが出来る」という理解をした。

 

 ここに「マイノリティ」という非常に巨大で新しい層が、住宅売買市場に参入することになる。これらの新しい層からの実需が加わったことがその後、アメリカの住宅市場が大きく上昇した原因の一つとされる。

 

 しかしマイノリティたちが住宅ローンを申し込むと、たいていの場合、ローン審査で「優 良な(プライム)な借り手」としての評点を満たさなかった。評点を落とした原因の中で最も多かったのは、過去の不注意によるクレジットカードの残高不足だ。彼らの多くはアメリカで非常に重視される「信用履歴」に傷がついていたのである。金融機関は彼らに優良顧客向けの「プライム・ローン」ではなく、信用力が劣る顧客向けで金利が高めの「サブプライム・ローン」を提供した。

 

 「サブプライム」の「サブ」とは「より下位の」という意味で、「サブプライム」とは「信用の度合いがプライムであるランクよりも『下』のランク」という意味だ。マイノリティたちはサブプライム・ローンを借りて住宅を買うことになる例が多かった。

 以下はいよいよ、サブプイム問題における「集団的なモラルハザード」の説明となる。

 

 アメリカでは住宅ローンはノンリコー スなので、返済不能になった場合は家を引き渡すだけで済み、残債は追及されない。サブプライム・ローンを貸し付けた銀行等はこのローンを投資銀行に売却してしまえば、このデフォルトのリスクとは無関係になる。投資銀行は買い集めたサブプライム・ローンからサブプライム証券を組成して投資家に売却してしまえば、元のローンのデフォルトのリスクから逃れられる。サブプライ証券を買った投資家はこれを投資家間の市場で売買を繰り返すので、リスクを負担しているという意識が低い。

 

 投資家がリスクに鈍感だった最大の理由は、サブプライム証券に付けられ ていた「格付け」にある。当時、前号で説明した「トランシェを切る(元利払いの受け取りに優先劣後構造を付ける)」という操作により「AAA」という高い格付けを得ていたサブプライム証券が非常 に多かった。

 

 過去のそれなりに慎重に融資されていた時代のサブプライム・ローンのデフォルト率の実績値から計算すると「AAA」になったとも言えるし、格付け会社が格付け業務の受託(格付け料の獲得)のために投資銀行に対して積極的に指南を施した結果とも言われる。

 

 やがて、2006-07年前後、一部の投資家が気付き始めた。「これらの証券には AAAやAA+が付いているが、本当に安全なのか?」

 

 2006年夏にアメリカの住宅価格はピークを打ち、やがてなだらかな下落が始まり、サブプライム・ローンでのデフォルトが起き始めた。2006年暮れころには、サブプライム・ローン専業の中小ノンバンクで経営に行き詰るところが出てきた。

 

 サブプライム・ローンには当初2-3年 を「低利固定のティーザー金利(客寄せ金利)でかつ金利のみ払い」と極端に優遇し、その後「高金利かつ元本返済開始

」にスイッチされるものも多かった。このデフォルトの時限爆弾に本格的にスイッチが入り始めたのは2007年だ。

 

 銀行は収入が低すぎる人間について、あうんの呼吸で「所得証明書が添付できない」とさせた。その方がローン審査上、 高い評価点が付くほど低収入だったのだ。銀行としてはこのローンは投資銀行に売却して利益を得るので、債務者からの返済の確実性はどうでもよかった。このような「アメリカ版あうんの呼吸」はサブプライムビジネスの各所で見られた。

 

 サブプライム・ローンは審査が簡単ですぐに実行されたので、白人の中で山っ気の多い人間も利用した。すでに自宅を持っている人間が、二戸目以降の住宅について値上がり益狙いの短期転売目的で数%程度の頭金を入れ、残りはサブプライム・ローンを借りて投資用に買ったのだ。モーゲージがノンリコースであるアメリカでは、サブプライム・ローンはリスクが高い投機的取引においても使い勝手が良かった。

 

 これらは「集団的モラルハザード(リスクについての総無責任体制)」と言ってよいだろう。

 

 問題はサブプライム・ローンにとどまらず、プライム・ローンでも発生していた。

 プライム・ローンのみを扱う政府系金融機関でもモーゲージ証券が腐り、巨額の税金投入に至った。後の責任追及で、銀行によっては「兆円単位」の罰金和解に追い込まれる。しかしサブプライム問題はその後の徹底的な調査にもかかわらず、逮捕に至ったのは一人のみだった。大事件だったのに、関わった各人別については犯罪を立証できなかった訳 である。

 

             ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

MF Press Vol.38 2016年12月

 

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世界から見て日本の不動産制度は「ここが変」

 世界を見渡し、日本の不動産関係の諸事項で奇妙に見える点を3つ、あげてみましょう。

 

 最も奇妙なのは「借地権」です。貸したものを返してもらうのに「正当な事由なりそれを補完するためのお金が必要」というのは世界的にも類を見ないと思います。

 そもそも借りたものは何はともあれ返すのがノーマルです。日本の借地契約のような関係に「貸す・借りる」という言葉をあてている民族はたぶん皆無で、「借地権」を「リースホールド」と訳すときには注意が必要です。

 ちなみに日本における借地権の問題を議論する際には最低でも明治時代の民法制定時のいきさつ、場合によっては江戸時代の土地制度にさかのぼることが必要なのだそうです。

 

 日本では不動産登記簿が「土地」と「建物」に分かれていますが、これも世界共通ではありません。日本の制度はまるで「土地の売買」と「建物の売買」がばらばらに行われることがそもそもの出発点とされているかのようなしつらえですが、「借地制度」をどういじってもしっくりこない原因の一つはここにあるようです。

 このあたりは、一昔前は外人投資家に問い詰められるとこちらも訳が分からなくなる、鬼門のような分野でした。

 

 年を経る事で「建物」の市場価値が減じる速度、いわゆる「中古建物の築年減価」が非常に大きい事も、日本特有です。欧米諸国では石造りだけではなく木造でも「築年数が古い」という理由で評価額が低くなる事はありません。

 ある中古建物に安い値段が付いたとしたら、それはその家の台所が旧式で薄汚れているからとか、設備の配管が痛んでいるから、雨漏りするからといった理由などによるものであり、「築年数が古いから」ではないのです。

 

 また、一般に「築年数」より「ロケーション(立地)」の方がはるかに重視されます。

 

 もう一つ、日本で特徴的なのは「住宅ローン」が返済不能になった時の取り扱いです。日本では担保となった住宅を処分した上で残債があれば、それは追及されます。

 しかし多くの国では、返済不能になった場合は建物から退去してそれを銀行に引渡せば、それ以上の追及は受けません。住宅ローンも「ノン・リコース」なのです。

 

 意外なことに、住宅ローンがノン・リコースでないのは先進国では日本とスペインくらいです。日本はバブル崩壊からの立ち直り、スペインはリーマンショック、あるいはユーロ国債危機時の金融危機からの立ち直りが遅かった訳ですが、その原因の一つに、この「住宅ローンがノンリコースではない」事が挙げられています。

             ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清 

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY

real-news Vol.19 12月号 2016年 掲載

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