2015年8月執筆実績

主なテナントを固めてから着工するのがアメリカでの基本

 アメリカでは(他の多くの経済成熟国でもそうなのですが)、オフィスビルは「主なテナントを固めてから着工する」のが王道です。テナント未確定のうちに着工するのは「スペキュラティブ・インベストメント(投機的投資、博打的投資)」と呼ばれるほどです。

 

 これには不動産融資の慣行が大きく絡んでいます。アメリカの商業不動産は多くの場合、プロジェクト専用のペーパー子会社(SPC)を設立し、資金はその子会社が借り入れる形を取ります。ビルからの収入だけでは銀行への返済が出来ない事態に陥った場合、親会社はその当該子会社を倒産させ、その結果、ビルの所有権は銀行に移ります。そして親会社にはそれ以上の返済を求められないのです。この「それ以上の返済を求められない」事を「ノン・リコース(非遡求)」と言い、このようなローンを「モーゲージ・ローン」と呼びます。日本の「不動産担保融資」とは別物です。

 

 ちなみにノン・リコースローンで史上最大の踏み倒しを行った不動産会社は、カナダのデベ最大手、オリンピア・ヨークです。同社はロンドンのカナリー・ウォーフ(ドッグランド再開発)プロジェクトで大失敗をし、1992年、当時のレートで約1兆円を踏み倒しました。

 

 アメリカでは「スペキュラティブ・インベストメント」は主にニューヨークとサンフランシスコで見られ、特に前者で近年、これが盛んです。しかし一部のプロジェクトは竣工後もかなりの空室を抱えるようになりました。代表例はワン・ワールドトレードセンターです。部分オープン後6ヶ月経った時点でまだオフィス部分の3分の1が空室で、今後のテナント付けの展望が見えません。同ビルはアルカイダによる同時多発テロで倒壊したワールド・トレードセンター跡地に建てられた、高さが541mとアメリカを含む西半球で一番背が高いビルです。

                       ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY real-news Vol.3 8月号 2015年 掲載

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日本ではなぜ「スペキュラティブ・インベストメント」が多いのか

 日本ではテナントが固まっていなくても賃貸用オフィスビルの建築を着工する例が過半であり、これは世界の先進国・経済成熟国の常識から見ると例外的な訳ですが、なぜ日本ではこのような「スペキュラティブ(投機的・博打的)なインベストメント」が多いのでしょうか。その最大の理由は「それでもなんとかなってきた」からでしょう。

 

 他の理由も上げたいと思います。それは事業にかかわる「土地代」の問題です。日本の大手デベは多くの場合、用地を買うなり別の形のコストを払って事業機会を確保します。用地確保段階で事業費全体の大体まあ3割程度を支出し、従ってこの段階でもう後戻りはできなくなっています。つまり日本のデベがスペキュラティブなデベロップメントを決断しているタイミングは建築工事着工時ではなく、用地取得時なのです。

 

 一方、アメリカを例にあげると、オフィスビルは借地上に建っている事が非常に多い事が分かります。アメリカの借地の慣行では「権利金」とか「借地権設定対価としての一時金」のようなものはありません。年間の借地料というのは、土地利用料の分割払いのようなものですし、そもそもの土地価格が東京と比べると非常に安く、さらにその分割払いですから「事業用地確保」のためのコストは日本でのコストと比べると微々たる小ささなのです。

 

 その他の理由を含めて一言でいうと「マーケットの構造が異なる」と言えます。世界の常識は日本では非常識であり、従って日本では通じません。「テナントが決まらなければ土地は買わない」という姿勢では、日本ではお話になりません。海外のデベは日本でのこの常識について来られず、従って世界に名だたるデベでも日本に進出している所は皆無です。

                       ジャパン・トランスナショナル 代表 坪田 清

三井不動産リアルティ㈱発行

REALTY real-news Vol.3 8月号 2015年 掲載

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